NHKのドキュメントで、地面師による土地売買詐欺を追った番組を見ました。都心の一等地の高騰を背景に、希少な優良物件をめぐる不動産関連業者の競争の隙をつくような詐欺が多発していましたが、今回取り上げられました、五反田の土地をめぐる地面師の手口やそこに関わった人々、55億円を超える被害を被った大手住宅メーカー積水ハウスがいかにこのような詐欺にあってしまったかという話でした。
今日、私が驚いて取り上げますのは、大手企業がまんまと詐欺にあった要因である人間達の行動についてです。
最初の印象は、この事件を題材にした小説やドラマに描かれていたように、円熟した地面師達による非常に巧妙に仕掛けられた罠であったと思っていたのですが、この詐欺に関係した人間の取材から判ったことは、実際の詐欺師達はかなりいい加減な計画で、何度もいろいろな詐欺を企てては失敗も多く繰り返した中での、この事件は非常に運良く事が進んだケースだと言うことです。そのような杜撰な企てにどうして、大手企業がころりと騙されたのでしょうか。それには、この取引に関与した積水ハウスの人間達がそれぞれ自分の立場を守る為に、真実から目を逸らすような感情が働いたからだと思います。
積水ハウスの関係者達が、もしも目が曇っていなければ、この詐欺を疑い、取引を中止出来るチャンスが何度もあったにも関わらず、結局55億円を騙し取られたのです。
そこに至る場面場面で、積水ハウスの関係者の真実から目を逸らし、手前勝手な判断が重なったのでした。
一番のポイントは、売主である本物件の所有者である高齢女性が本物であるかという点でした。以前に何度も飛び込み営業で、この売主に会っていた積水ハウスの元営業マンに今回の売主の写真を確認してもらったら、違う人間だと証言していたにも関わらず、それを聞いた現在の営業担当は、かなり前の記憶でのあいまいな証言であるし、社内で大きく期待されている大口案件に水を差すことは出来ないとこの証言を握り潰しました。また、一般的には、上司に上げないとしても、リスクを消す為にも独自に調査するのが当たり前と思うのですが、売主の身分を調査するようなことが本人に知れたら、心証を害することになると、調査をしなかったのです。次に、本当の所有者の代理人弁護士から、内容証明郵便で、自分の保有する物件を売ることはあり得ない、今の取引を即刻中止しなさいと、積水ハウスに何度か通達していたにも関わらず、これも、競合他社の陰謀であると、一蹴しました。最後のチャンスは、契約締結の場でした。この契約を取り仕切る司法書士が売主に本人確認のパスポートなどを確認した上で、記載されている誕生年から、干支は何かと質問したことに対して、偽売主は間違った答えをしました。それに対し、詐欺団のリーダーが冗談のようにうまく取り繕ったことに、積水ハウス側の人間は笑って、それを問題にしなかったのです。彼らは、パスポートだけではなく本人確認の公正証書があるから、頭から本人であると信じ切っていたので、せっかくボロが出たのに、追求しなかったのです。
このように節目、節目に登場した人間がいい加減な判断をしたことが重なり、まんまと大金を騙し取られたのでした。そのような判断をした背景には、経営層から、大口案件を確保せよとする大きなプレッシャーがあったこと、関与した社員はそれぞれが上司の顔色を伺い、上司が喜ぶように独善的な判断をしたこと、そのことにより、本人確認の公正証書が偽造であるとの可能性を考えず、そこを確認することを怠ったことにあります。
ビジネスとはリスクマネージメントと言い替えられるかもしれません。ですから、考えられるリスクに対しては、どんな些細な情報も無視しないで、きちんと裏をとるのが基本だと思うのですが、残念ながら、そのときに関与した積水ハウスの人達は、どこかに成功だけを掬い取るような希望的な考えに逃げてしまったのでしょう。
積水ハウスのような大企業であろうと、いかにいろいろな組織形態や多くの社内ルールを作っていたにせよ、最後はそこに関わる人間がどう動くかで、今回のようないい加減な詐欺集団に騙されることがあるということを、ビシネスに関わる人々は肝に銘ずるべきだと思います。